7月の勉強会報告
任意団体ヴィープス(木原一裕チェアマン)は7月17日、東京都豊島区東池袋の貸し会議室で7月度の勉強会を開催しました。
今月テーマに定めたのは「デジタル印刷機の損益分岐点について」。ヴィープスの特徴であり魅力を成すのが、印刷会社もメーカー・サプライヤーも同じ「会員」として等しく仲間であるというフラットな関係性です。通り一遍の話に終始するのではなく、またメーカーの美辞麗句だけが並ぶ自社機械のプレゼン会でもありません。会員企業の印刷会社はデジタル印刷機のオーナーも多いことから、各社のベストプラクティス共有をはじめとする踏み込んだ話に敢えて触れ、誰もが気になる「デジタル印刷のそこのところ実際どうなの?」というトピックを赤裸々に協議する機会となりました。

ただ、そういったプラットフォームがあるとはいえ、それを享受できるのは当日参加した者だけ。後に文字やデータに残らないからこそ伝えた言葉、打ち明けることのできた部分もあります。元来それがライブ感であり、生ゆえの魅力。ここにすべてを残すわけにはいきませんから、内容を限定してリポートを掲載します。
前半は「AccurioLabel 400」と「同230」を製造販売するコニカミノルタジャパンの三澤守氏が、後半は「SurePressシリーズ」を提供するエプソン販売の木本郁子氏が講演。続いて、聴講者のうちデジタル印刷機のオーナーがそれぞれ運用の妙や損益分岐点についてマイクを握った後、質疑応答と意見交換を行いました。
①デジタル印刷機メーカーの講演

■コニカミノルタジャパン三澤氏 発表要旨
◇テーマ
・「デジタル印刷とアナログ印刷の損益分岐点」
・副題:単価比較から「工場全体最適化」へ(どの仕事から利益を生むかで分岐点を捉える)
◇問題意識(業界環境の変化)
・高品質化/多品種少量化/短納期化が進行
・人手不足、技術継承の課題、機材価格高騰などで従来運用が難化
◇アナログ機の強み(前提の整理)
・大ロット、特色、単色〜3色、定番品に強い
・特色再現性、ロングラン生産性、機材適性、後加工との親和性が高い
◇デジタル機(AccurioLabel 230/400)の概要
・AccurioLabel 230
・CMYK、印刷速度:18.9m/分
・導入コストを抑えつつ、中小ロット・多品種・ジョブ切替が早い
・AccurioLabel 400(フラッグシップ)
・CMYK:39.9m/分、白印刷時:20m/分
・生産性・品質安定性(IQユニット等)・経済性、白トナー活用が可能
◇料金体系(原価の見える化)
・複合機(コピー機)に近い「固定費+変動費」のシンプル構造で、原価計算・採算判断・見積スピードにメリット
・固定費例の公開と230、400両機のメートルあたりの単価参考値

◇損益分岐点の捉え方(提案の中心)
・従来:アナログ vs デジタルの「1枚単価」比較に寄りがち
・提案:印刷前後(段取り、ヤレ、オペレーター依存等)を含む総コストで見る
・デジタル:版不要、段取り少、ヤレ少、熟練依存低い
・アナログ:版が必要、色数増で段取り増、ヤレが出る、熟練依存が中〜高
・分岐点は固定ではなく、仕事の内容・生産条件でコスト線の傾き/位置が変わる→分岐点が動く
◇機種選定マトリクス(工場全体最適化)
・仕事特性(単色〜写真・グラデ等)× ロット(小/中/大)で最適機を選ぶ
・置き換え」ではなくすみ分け(役割分担)が重要
・アナログ:得意案件に集中→実稼働率と時間当たり生産性を向上
・デジタル:中小ロット短納期を収益化、受注機会拡大
◇まとめ(三澤氏)
・損益分岐点は固定ではなく条件で変化
・アナログとデジタルの使い分けが工場全体の利益最大化につながる
・AccurioLabelは全体最適化に貢献する選択肢

■エプソン販売 木本氏 発言要旨
◇基本スタンス
・アナログ vs デジタルの優劣」ではなく「適材適所で工場効率と売上最大化を支援したい」
◇総利益分岐を考える前提:コスト構造の違い
・デジタル:紙代+(インク/トナー)+保守(補修)+償却費+人件費+後加工費+製造管理費+営業管理費 等
・アナログ:上記に加えて版代(製版関連)が発生
・違いの核:版の有無/保守(補修)費の考え方/立ち上げ時の損紙(ヤレ)
◇ヤレ(損紙)の比較イメージ
・デジタル:1枚目からフルカラーが出るため、立ち上げ損失が小さい(0ではないが少ない)
・アナログ:立ち上げ時に一定量の損紙が出る(時には100mを越えるケースも)

◇例題での概算(考え方の提示)
・70×100mm相当のラベルを面付けし、5,000枚ジョブを想定して説明
・デジタル側(例:SurePress想定)
・立ち上げ損紙を小さめ(例:10m程度)と見込む
・印刷速度:3.6m/分として印刷時間を概算(約1.5時間程度のイメージ提示)
・償却・保守込みの費用を「稼働日数・ジョブ数」で割り、1ジョブあたりの負担として捉える説明
・オペレーションは比較的短期トレーニングで立ち上がる
・アナログ側
・版作成・待ち時間・段取りなどが入り、前工程の時間/費用が増える
・機械価格はデジタルと大きくは変わらない場合もあり、償却年数・1日ジョブ数で1ジョブ負担が変動する点を強調
・熟練育成に半年〜1年など「教育コスト」も実務上は効いてくる、という論点提示
◇結論(木本氏)
・損益分岐は変数が多く、「ここからデジタルが得」などを一律に言いにくい(紙種、ホワイトの有無、モノクロ運用、ドラフトモード等でも変化)
・ただし、稼働を増やすほど(特に夜間運用や2勤など)償却負担が下がり、採算が取りやすくなるという考え方を提示
・ユーザーの証言として「300〜700m程度」や「5,000枚」あたりを境に使い分けている例を紹介
・インクコストは「粒数(インク量)から見積もる」シミュレーションが可能。データを基にフィードバックできる旨を案内
②デジタル印刷機ユーザーによる感想・雑感などコメント

■永井印刷・永井謙太良会長(要旨)
◇雑感
・デジタル機導入の効果は「損益分岐点の計算」だけでは捉えきれず、導入後に受注内容そのものが変化する点が大きい。導入を契機に、従来の用途から派生して新しい需要(例:推し活系シール)へ広がり、結果としてデジタル領域の仕事が増加した
◇具体例・ポイント
仕事の変化例
・当初は会員情報などの用途中心 → デジタルでカラー対応が可能に → 推し活/アニメ関連のシール需要が増加
・バリエーション違いを短サイクルで出す流れがあり、「1,000枚程度」単位の小ロットが回りやすい
◇校正(色味調整)面の強み
・デジタルは校正を複数案まとめて提示しやすく、立ち会い校正の負担や時間を減らしやすい。販売機会(タイミング)を逃しにくい、という見立て。
◇運用面の強み
・デジタルは「動き出したら勝手に動く」ため、1人で複数台(印刷+加工含む)を並行運用しやすい。
◇結論として
・損益分岐点の議論以前に、まず導入して運用を作ることで、仕事・利益構造が変わる可能性がある
■朋JSP・長田社長の発言(要旨)
◇雑感
・デジタル導入後は「どの仕事をどの設備に振り分けるか」によって利益が左右されることを実感している。食品向けラベルが売上の大半を占める中でも、デジタルを組み込むことで工程全体の利益を作れる場面がある
◇具体例・ポイント
事業構成の前提
・食品向けラベルが売上の約95%で、小ロットで高利益を取りやすい商材が多いわけではない
◇工程内の役割分担
・アナログ機を大ロットに集中させ、小〜中ロット(例:500〜3,000枚程度)をデジタルへ回すことで、全体最適を図る。「空いた時間で別の仕事をする」発想でデジタルを活用している
◇課題認識
・後加工機がネックになりやすい。
・海外製の活用自体を否定はしないが、国産含め選択肢が広がると業界が変わるのでは、という見立て

■ニッカ・栗田氏の質問と回答(要旨)
・従業員/オペレーター視点では、「人手不足」や「熟練依存」という現象は「必ずしも悪ではないのでは」という問題提起。なぜなら「自分の利用価値が示せる場合もあるため」
・デジタル普及でスキル習得が容易になると、技能差がつけづらくなり、技能給が上げにくいのではないか
・また技術・設計上の疑問として、ラベル印刷の幅が国内では最大330mm程度が一般的だが、600mmや900mmなど広幅にして後にスリット処理すれば、ワンオペでも生産量を2倍3倍にできるのではないか
・印刷機メーカーが広幅化しないのは、メリットがないのか、技術的/運用的な制約があるのか
◇回答 会場全体
・主な制約として、後加工工程との整合が大きい
・後加工機の対応幅が330mm程度中心で、印刷幅を広げても結局スリット等の工程が増え、効率が落ちる可能性がある
・「印刷した幅のまま後加工へ流せる」ことが効率面で重要
◇市場・運用面の制約
・需要側としても、無駄を嫌い適性な幅で原反を手配する傾向があり、広幅化が必ずしも歓迎されない場合がある
・広幅やメーター数が増えると重量が増す。セットも容易ではないうえ物流面にも制約が生じる
・広幅原反の取り回し(力仕事、縦掛け保管、搬入など)やスペース面の課題が増える
◇補足的な言及
・海外にはより広幅の選択肢がある例も示しつつ、ラベル用途で一般的な運用としては定着していないのでは、との意見も

■カナエ・志川氏の発言(要旨)
◇発言概要
・現状の設備構成と運用体制を発表。デジタル・アナログ双方の運用人数感の違いに言及
◇具体内容(共有された現状)
・設備:SurePress2台、AccurioLabel1台
・後加工:レーザー加工、平圧抜き等を組み合わせて運用
・人員:デジタルは基本2人で運用。アナログは基本1人1台の体制
■東海タック産業・今村俊介社長の質問代読(要旨)
◇質問内容
・デジタル印刷機メーカーは、後加工機メーカーとの連携(インライン化や連動など)をどう進めているのか
◇回答要旨
コニカミノルタ側
・基本は印刷中心で、後加工はオフライン運用が前提
・インラインは魅力がある一方、段取りや停止の影響(後工程の準備で印刷機が止まる等)もあり、オフラインによる後加工選択肢の広さを利点と捉える
・印刷と加工の一体型は「すぐに」というより、現時点では段階があるという認識。
◇エプソン側
・実例として、他社後加工機を組み合わせるケースがある。インラインは、連動でヤレ低減などの利点がある一方、片方の停止が全体停止につながる等のデメリットもあり「一長一短」
・今後、対応機器の選択肢が増える可能性にも言及

■久保井インキ・碧木賢吾氏から始まる意見交換(要旨)
◇入口の発言(碧木氏)
・「オンデマンド(デジタル)のインキ代が高い」と言われがちだが、今日の議論を通じて「ヤレが少ない」「スキルレス化」1枚目から仕上がる」といった要素で、トータルでは差が縮む面もあると理解した、という受け止めを共有
・その上で、インキメーカー視点の関心として「ベタ刷り時のインク使用量(膜厚、平米あたり使用量、カートリッジ消費など)を定量的に把握したい」という質問を提示
◇メーカー側の回答
・一律の「ベタで何cc/何円」などの単純な定量回答は難しい(運用上、色ごとの減り方が均等でない/カートリッジ交換単位などの事情がある)
・粒数カウント等のシミュレーション(オプション)で、案件ごとの試算は可能、という説明はあり
・トナー方式かつ料金体系がメーター単価中心であり、ベタ率等で変動しない(設定上の上限管理等に言及)
◇参加者側からの追加意見(永井会長の実感共有)
・実感として「デジタル導入後にインク代(消耗品費)が大きく増えた」
◇収束
・「インク単体の比較」を求める側と、「総コスト・運用全体で見るべき」という側で観点が交錯し、インク単体の厳密比較はこの場では結論が出ない形で一旦区切られた

実はメーカー2社の講演が終わった時点でまだ勉強会の時間が半分以上残っていて、あと半分をどう回したものかと思案していました。しかしそこからは、聴講していたデジタル機のユーザー企業がみなマイクを手に自社なりの運用術や損益分岐点を発表。さらには損益分岐をしっかり見極めるならば副資材の価格を計算式に代入しなくては、という趣旨であまり公開されていない数字についても果断に踏み込み、情報開示と共有を狙うといったやりとりも見られました。
勉強会終了後はイタリア料理店で懇親会を実施。熱気の余韻も手伝い、振り返りや受け止めの協議や第2ラウンドが繰り広げられるなどして充実した時間を過ごしました。

