6月の勉強会報告

 任意団体ヴィープス(木原一裕チェアマン)は6月19日、東京都豊島区東池袋の貸し会議室で6月度の月例勉強会を開催しました。

 今回の演題は「RFIDの最新動向と印刷・ラベル業界の可能性」。講師に大日本印刷㈱情報イノベーション事業部の中野茂氏を迎え、RFIDと周辺情報をお話しいただきました。同氏は(一社)日本自動認識システム協会のRFID部会で要職を務めたり日本におけるRFIDの普及・浸透・拡大の局面で長く携わったりと、界隈では著名な方。DNPの一社員としての使命はもとより、企業の枠組みを超えて発展に貢献してきた同氏の足跡を追体験する機会を得た会となります。

 そんな同氏のRFIDとの出会いのエピソードから、国内RFID市場の黎明期、成長期の変遷、現在の課題と今後の展望まで、包括的に説明していただき、とても学びの大きな機会でした。以下はそのリポート抄訳です。

◇国際標準化の現場:MIT Auto-ID Centerと「UHF RFID」の広がり

 2001年頃、米MITに設立されたAuto-ID Center(UHF帯RFIDの国際標準を決める動き)に、DNPは早期から関与。中野氏はユーザー側として参加し、四半期ごとに米欧を行き来する会議の場で議論を重ねたそうです。最初期からリスクを取って参加する企業を、米国側が非常に重視する文化も印象的だったとの話や、国際会議の舞台で標準化に向けた各国の意見の対立はどう帰結をみるのか、などといった国際ビジネスの温度感も伝わりました。

◇市場の“枚数感”と「価格はもう下がらない?

 中野氏から、国内統計を枚数換算すると「2024年をピークに微減から横ばい」という見立てが紹介されました。世界市場においても、直近は在庫調整も含めて予測枚数が足踏み傾向だといいます。

 国内市場で最も多くRFIDタグ・ラベルを運用している著名な某アパレルを例に、下げ札タイプやラベルタイプの1枚あたりの相場観にも言及。中野氏は「最大ユーザーの単価感がこのくらいなので、『もっと安くなったらわが社も運用する』という考えは成立しづらい」との話。さらに、円安や半導体需給の構造を踏まえると「これ以上単価は下がりにくいだろう」との見解が示されました。

◇技術の現在地:最近のチップは「性能が上がり、制御が難しくなる」

 以前は難しかった条件(例:金属が多い/密集した状態など)でも、チップ性能向上により読み取れる領域が広がってきたという実感も共有されました。こうして、とかくRFIDというと「読めるか読めないか」が焦点になりがちですが、講演ではむしろ逆方向の課題を指摘します。

 「近年、チップは通信性能が大きく向上している」と同氏。その結果、現場では「読みたいものを読む」だけでなく、「読みたくないものを読ませない制御」が重要なのだといいます。例えばセルフレジ。チップやアンテナ設計の向上で通信距離が伸びたことで、背後の対象まで読んでしまうといった、リスクとのトレードオフも指摘します。

◇いま日本で導入が進む理由:ROIより「人手不足」と「事業継続」

 総論として講演の中で最も繰り返し語られたのは、引き合い増加の背景が「合理化で儲けを増やす」だけでなく「人がいないので、そもそも事業が継続できない」へ移っている、という市場環境の変化でした。

 ここでの重要な指摘は、RFID導入が「バーコードの置き換え」に留まると失敗しやすいという点です。RFIDの特性に合わせて業務プロセスそのものを再設計できるかが成否を分ける、という見立てとともに、どうデータを集め、それをどう使うのかを事例とともに紹介します。

サプライチェーン可視化と疑心暗鬼”の解消(経産省関連の実証)

 サプライチェーンの各プレイヤーが在庫情報などを閉じることで、過剰発注・過剰生産が連鎖する(いわゆるブルウィップ効果)を、RFIDでデータ共有し改善する実証の話がありました。さらに、棚アンテナと電子値札によるダイナミックプライシングの試みなど、技術的に「できる」ことは示せた一方、設備コストとのバランスの難しさも率直に語られています。

②商業施設のEC連携:バックヤード在庫を“販売機会”に変える

 LaLaポートの例では、複数ブランドのバックヤード在庫を読み取り、施設側ECへ連携する取り組みが紹介されました。全国複数店舗からデータを集めるために、DNP側クラウドで一度受け、必要情報をクレンジングして渡す、といったデータ基盤の重要性でした。

③レンタル機材:いきなりRFIDではなく、標準化→ペーパーレス→RFID

 建設現場の足場レンタル企業の事例では、属人化をやめる(標準化)→ペーパーレス化(転記作業の排除)→RFIDで自動化・可視化、といった導入ステップが特徴的。RFIDは“最後の一手”として効いており、単体導入ではなく、業務基盤整備の延長線に置かれている点を説明しました。

④宅配便(UPS)や文書保管(銀行系)

 UPSでは追跡ポイントが多く、バーコードの手作業では現実的でない規模のトラッキングをRFIDで実現している例が紹介されました。また、法的保管義務のある帳票類を「探せる」ようにする用途(税務調査対応など)も、トレーサビリティー要求の高まりと整合します。

◇まとめ:RFIDは「道具」。価値起点のバックキャストへ

 終盤の総括で中野氏は、RFIDを「モノづくり」や「タグ」というモノ売りで捉えるだけでは限界があるとし、次の視点を強く促しました。

・RFIDは目的ではなく、価値を実現するための道具

・何を実現したいのか(事業継続、トレーサビリティ、在庫可視化、販売機会拡大等)から逆算し、

・そのための仕組み(運用・データ基盤・認証等)まで含めて設計する必要がある

 また、導入検討支援として、POC設計・実施・報告まで肩代わりするサービスにも触れられ、「現場の定量化」や「組織への説明可能性」を高めることで、導入の失敗確率を下げる実務的な取り組みが紹介されました。  講演中は質疑応答も随時行われて疑問を解決したほか、RFIDタグ・ラベルの製造法についても図解で紹介。その中で、半導体はもっぱらハイテク産業で世界問わず広く需要が拡大しており、大量生産かつ安価であることが要求されるRFID用途に回すよりも、単価も高く合理的に儲かる産業向けが優先されがち。そういった一時期とは異なる潮目の変化についても赤裸々に語られました