5月の勉強会報告
Viepsは5月16日、中央区銀座の東京都中小企業会館で勉強会を開催しました。
今回のテーマは経営者なら誰もが気になる銀行取引と決算書の関係について。そしてもう一つは、自分が明日から社長ではなくなってしまう可能性があるという恐怖の自社株にまつわる話を、三井住友海上あいおい生命保険㈱の堀田裕之チーフ・フィナンシャル・コンサルタントが講演しました。
堀田氏は愛媛県宇和島市出身。あの高校野球で有名な宇和島東高校卒で、自身も甲子園に応援で参加したとのことです。就職後は収益用不動産を中心とした個人資産コンサルティングに7年6カ月従事。300人以上のお客さまにさまざまな提案をしてきたそうです。現職では新人特別賞や年間新人賞、営業成績全国第1位など輝かしい実績をお持ちです。
冒頭、堀田氏はこの日の全体の内容を「資金調達に関する特別な情報」「企業価値を向上させる情報」「相続、事業承継に関する特別な情報」の三つであると示し、講演を開始しました。
講演の第1部は「税理士・銀行員は教えてくれない!銀行取引を有利にさせる決算書作成の秘訣!」のテーマでお話しいただきました。
中小企業の生存率は設立後1年で半分がなくなり、3年後には20%に、10年後5%、そして30年後には0.3%の会社しか残っていないという内容を講師がグラフで説明。
「今日おいでの皆さんの会社も、設立後30年以上経過した会社があるかと思いますが、それは1000件に3件という非常に希少な会社です」と堀田氏。また、日本経済新聞のアンケートで現在の経営の課題を聞いたところ、1位は34%で「資金繰り」で、2位の「販路拡大」の24%を大きく上回っているそうです。
さて、この会社を存続させるための資金繰りですが、長期で低利子の融資を受けられる方法があります。
「中小企業事業活動促進法」により、日本政策金融公庫から金利が0.9%~で20年返済、それも2年は返済据え置きという内容で借り受けられるのです。ただし、これには審査があり審査を通過するのはわずか100社の内5社です。
この通過した企業は何が違うのか?それは決算書です。銀行でも決算書の一部を見て融資するかしないかを決めています。
「あなたの会社の決算書は実力どおりですか?」
この決算書、税理士が10人いれば10人がまったく異なる決算書を書きます。例えば、「税金を払いたくない」と経営者が言えば、そのとおりの決算をしてくれます。
では銀行はどこを見ているかというと、貸借対照表の「流動資産が多いこと」、そして「流動負債が少なく、固定負債の方が多いこと」。
また、損益計算書では「営業利益」と「経常利益」しか見ていません。
金融機関融資のポイントですが
①2期連続で税引き後損失になっていないか?
②実態純資産が債務超過でないか?
③帳簿上債務超過でないか?
④返済条件の変更をしていないか?
⑤債務償還年数が10年以下か?
の五つです。
ある小売業の会社が店舗を増やし、年商10億円を実現したいと考え、店舗開店資金の融資を願い出ましたが、いずれの銀行でも「債務超過」を理由に門前払いされてしまいました。その時に行ったのが決算書の改善です。
改善を行うポイントは固定資産を流動資産に、流動負債を固定負債に換えることです。
ここでよく言われるのが「税務署は大丈夫か」ということ。講師のコンサルした会社では、一度も税務署から注意を受けた例はないそうです。それは、その決算書の改善を行っても税金は変わらないからです。
決算書の中で特に生命保険は、節税や退職金準備では優先順位の低い項目ですが、これの運用を間違え決算書を悪くしている会社が多いのです。
まとめとして、正しい決算書の作り方を示し「銀行格付けを意識した経営」「財務経営力を高める」「企業経営の本質である継続価値を高める」。また、決算日が到来し、試算表ができた時点で「財務参謀と相談し、決算書改善のポイントを探る」「決算方針を明確にする」「会計事務所に指示する」などと総括しました。
第2部は「税理士のせいで明日から社長じゃなくった!自社株が巻き起こす悲劇!」がテーマでした。
まず、事業承継のポイントとして、事業承継は「節税対策を行い、自社株を子供たちに引き継ぐことではない」そして「現経営者が次世代に経営を引き継ぐこと」と示されました。
承継の目的は自社の存続と更なる発展であり、オーナー家のさらなる発展、手段は経営の承継。つまり単なる資産の承継ではないということです。
「自社の経営」は「自社株」によって相続資産に結びついています。
この相続ですが「税理士がいれば大丈夫」はトラブルの元。
税理士試験で相続税法を選んでいるのは30%。それ以外は、まったく勉強していないか、勉強していてもそれほど知識がなく、精通しているといえるのは、5%ほどです。
相続のリスクですが、自社株の分散で後継者が議決権を確保できていないことや、株価の高騰で、想定外の相続税が降りかかることなのです。未公開株の株価は保有資産や含み益などで決まる「純資産株額方式」と「類似業種比準方式」を組み合わせて行います。相続税を下げるには、株価を下げる決算を行わなければなりません。
もっとも恐ろしいのが「株式買取請求権」です。
これは相続で株を受け継いだ経営にかかわらない親族などが、株を買い取ってほしいと弁護士などを通じて請求することです。つっぱねれば、裁判となり、負ければ莫大な金額で株式を購入することになりかねません。また、議決権によっては自分の代表取締役という役職を解任されかねません。
対策として、堀田氏は次の4点を挙げました。
①分散した株式はこちらから申し出て買い戻す
②業績が悪いときがベストタイミング
③会社が今後成長する見通しであるなら早めにアプローチする
④話し合いの場には、株主の妻や夫など関係者も同席させる
終わりに堀田氏は「経営には『起こりえない』というような大きな落とし穴があり、多大な損失を被るケースがある。これを防ぐには適切なアドバイスが必要」と述べ、参加者に決算書や事業承継などの見直しを呼びかけました。