5月の勉強会報告
任意団体Vieps5月19日、銀座の中小企業会館で勉強会を開催しました。今回講師を務めたのは、今、シール・ラベル印刷業界内で“ビジネスモデルの成功事例”として特に注目を集める、広島県福山市の丸天産業㈱。同社の佐藤紘之常務が講師を務めました。
丸天産業が本拠を構える福山市は、瀬戸内工業地域のただ中に位置します。特に製鉄や重化学、繊維工業がさかんで、1973年創業の同社はこれらに付随する工業分野のラベルをはじめ、食品ラベルを得意としています。
同社は1990年代半ば、オフセット間欠機を導入。現在はさらに増設を果たし、クライアントから特に高い印刷品質を要求され他社が敬遠しがちな「キャラクターもの」も積極受注。こういったニーズに応える高品位印刷を自社の持ち味とし、クライアントからの信頼を得ています。
そんな丸天産業が一躍全国区に躍り出る大きなきっかけとなったのが、2012年に開始したマスキングテープの製造。ステーショナリーグッズの制作事業部「ROUNDTOP」(ラウンドトップ)を立ち上げ、これら自社商品を量販店に卸す商流を構築しました。現在では、事業部の名前だったROUNDTOPがブランド名としてマーケットに認知浸透し、同ブランドは国内に留まらず、アジアを中心に広く海外十数カ国で販売されるなど、世界に多くのファンを持っています。
冒頭、佐藤常務はこういった会社概要を説明した後 「今だにマスキングテープを皆さん何にお使いになっているのか、どうしてこれほど売れるのか。作り手として図りきれない部分もあるのです」と、男性目線の率直な感想で会場を沸かせつつ、マスキングテープの話に移ります。
「made in JAPANのものづくり」「地元企業と連携を行い世界に認められる商品づくり」「地方企業で特色のある技術・デザイン・素材などを生かした制作」――といったROUNDTOPの趣旨や製品コンセプトを説明する中で、佐藤常務は福山市に隣接する福山市に隣接する府中市の「府中家具」について言及。以前イベント用に製作したという丸天産業のマスキングテープを収める特製の木製テープカッターを披露し、こう説明しました。
「スタイリッシュなテープカッターですが、実は製造原価に対して、実際の上代は10倍以上です。つまり1つ100円で売ったものが、首都圏の店頭では1,400~1,500円の値段で売られているのが実態」
「府中家具の職人は、これほどの優れた技術を持っていながら、これまで総じて下請けやOEM供給に徹するばかり。自らでブランドを立ち上げることをしないため、自分たちの技術の価値に気がついていないのです。しかし、それはわれわれ印刷事業者も同様。工賃で価格が決まる『工賃仕事』に陥っているのではないでしょうか」
「常にデザインや機能性から高付加価値を追求する」
「ラベル印刷会社ができるのは『製造』と『営業』。これに対して、デザイン会社ができるのが『デザイン』と『ブランディング』」
「自社でデザインができずシールを印刷するだけの印刷会社と、いいデザインがつくることができるが、製造する術も世に送り出す術も知らないデザイン会社。両者が分業制で互いにない部分を補い合い、良いところを生かす体制を構築しつつバランスを調節し、一つの商品をつくり出す」
など、ヒット商品ROUNDTOP誕生の根幹となる“最適なパートナー選びの妙”を図解を交えながら力説。佐藤常務は、ラベル印刷会社が限られた資源(設備・技術、人員など)の中でものづくりや価値づくりを図り、商品を生み出しつつマーケティングを実践するかを説きつつ、言わば競合となる企業も聴講する中でも具体的なマスキングテープの印刷と加工の製造手順を詳らかにして紹介しました。
首都圏以外の企業が、国内はおろか世界へ飛び出し挑戦を続けるという丸天産業のビジネス戦略を聴講してた会員らは、講義終了後の質疑応答でも製造法も含めいつになく白熱した意見交換を繰り広げていました。