11月の勉強会報告

任意団体ヴィープス(宍戸伊助チェアマン)は11月17日、オンライン会議ツールZoomを使用して月例勉強会を開催しました。

「知的資産のストーリー化と経営デザインとの関係」を演題に、高谷行政書士で社会保険労務士事務所所長の髙谷桂子氏に講演いただき、17名が参加しました。

われわれにとって〝当たり前〟である、日々の印刷加工技術。その印刷加工技術が、会社の「資産」ともなり得ると講師は言います。資産と言えば、一般的に土地や建物などの有形物。それを担保に銀行から借入金を申請しますが、演題のような「知的資産」も融資の対象になるとのこと。つまり自社の〝当たり前〟、印刷加工技術はお金を生む資産ということです。

高谷様はこう説きます。

「『知的資産』とは、決算書には表れない技術や顧客とのネットワーク等の総称を言います。それは特許等の知的財産権を含む概念で、将来にわたって〝稼ぎ出す力〟を創り出す、企業にとって欠かせない資産です」

「『うちの会社のビジネスモデルはこのままでいいのか?自社らしい新しいビジネスモデルは何か?』。知的資産の見える化→活用→磨くことの重要性と経営をデザインする考え方が望まれます。新型コロナウィルス感染拡大、働き方改革、デジタル化など経営環境が著しく変化する中、改めて自社の事業をストーリーで見直してみましょう」

高谷氏は、地元だという東京都三鷹市にある小さなスーパーを例に挙げます。どこの街にもあるような小さな商店街。そこの地域密着の食品スーパーにインショップする、地元の魚屋さんがあります。わずか5坪ほどという昔ながらの魚屋さん、店頭販売のBtoCはいたって普通ながらBtoBこそ至宝。「三鷹市の小中学校20校超ありますが、このうち半分の給食の魚をこの店で購入しています」(同)、その裏側を説いてくれました。

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給食の担当者や栄養士さんからの注文は「子供たちに美味しいお魚を食べさせたいのでとにかくお魚は何でもいい」「魚の種類は何でもいいから、予算の範囲でとにかく美味しいものを納品してください」「子供が食べるので骨と皮を取ってください、魚は何でもいいです」という形が多いそうです。

少し前に事業承継した若い社長さん、その時に必ず「何に使うんですか」「どんな料理するんですか」と聞きます。同じサバにしても、部位によって焼いた方がいいのか煮た方が挙げた方が美味しいのか、さらにサバの種類によってもまた答えが違うとのこと。魚のプロだからこそ分かる知見やノウハウを持っています。

加えて、納品後売りっぱなしにしないのがまた特徴。

学校に行って調理師や栄養士、時には子供に直接「この間の魚どうだった、美味しかった」と聞くのだそう。時には、実は残食が多いんですという残念な声が返ってくることもあります。そうでしたか、で終わらせずに「どうやって調理しています?」とやはり尋ねます。

給食ですから、揚げ物なら大きな鍋に油を注ぎ、まとめて揚げる訳です。「それじゃ油で魚を煮た状態になって美味しくない、子供達食べてくれないよ」と、油の温度はこうで揚げ方はこうで…とアドバイスをします。それを元に次回の調理で改善し、そこにまたヒアリングに行くと、実はすごく反応よかった・みんな美味しいと食べてくれた、と。

で、その学校は子供たちが喜んでくれたことで次の学校を紹介してくれ、どんどんリピートと紹介が連鎖していく。こうして、市内の半分を顧客に持つに至りました。

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この社長さんは、自分の持っているノウハウが強みであることを自分で自覚をしていて、それを活用している訳です。もちろん失敗もあります。食育ということで、幼稚園で魚をさばいて解体ショーをしたら気持ち悪い・こわい・かわいそうと、逆に魚嫌いにしてしまったこともあるそうです。そこで原因を分析して改善を図り、別の機会で刺激の強い部分を除いた解体ショーを行ったら先生も親子も大好評に。

失敗も次のきちんと改善につなげてその知的資産を磨いていく。地域に根差して食で貢献していくことで、業績や企業価値の向上につなげている、知的資産のストーリーを実践しておられる魚屋さんでした。こういった取り組みがあって、他の飲食店が廃業していく中、50年60年経っても企業が継続して生き残っている。背景には、こういった仕組みがあるという訳です。