10月の勉強会報告
任意団体ヴィープス(木原チェアマン)は10月17日、東京都千代田区のちよだプラットフォームスクエアで10月度月例勉強会を開催しました。 今回のテーマは「エンジニアでなくても大丈夫!ノリと勢いでアプリができる!『バイブコーディングセミナー』」というもの。要は、Chat GPTをはじめとする生成AIを使用して、その場でアプリを作るワークショップ型の勉強会です。ヴィープスも、ついにこうしたニュアンスの勉強会を実施する日がきました……!

講師は、同じくラベル印刷会社社長で生成AIに精通している㈱ニコーの藍野雄一朗氏です。シール・ラベルをはじめ印刷業界界隈では、手練れの1人として名をはせている方。夏に実施した都内印刷業界の青年部で組織する団体の催しでは、藍野氏がプロデュースしたアトラクション「AI大喜利」で参加者の度肝を抜きました。藍野氏がChat GPTを相手に掛け合い漫才よろしく会話を繰り広げ、女性の人工噺家がなぞかけのお題を出し、自ら回答例を示し、参加者の答えを寸評するというもの。 今日のプログラムは、プログラミングなど一切知らなくても業務支援アプリを即興で作っていく、という野心的な内容。自分に本当にできるのだろうか・大丈夫だろうかと期待と不安が高まります。

皆さんは、バイブコーディングという言葉を聞いたことはありますか――。そう切り出した藍野氏は「バイブとは振動の意味ではなく、ここでは〝ノリ〟を指す言葉。システムエンジニアが行うコーディングとはまたちょっと違って、ノリと勢いでシステムを作ってしまおう、というものが『バイブバイブコーディング』です」と説明します。
そんな同氏は「生成AIは私たち人類に3つの恩恵をもとらした」と提起。
「1つ目は『日々の作業を楽にする』。メールの返信の文章を作ったりとか、メールボックスの中を確認して漏れを教えてくれたりとか、そういったことができます」
「次に『できないことをできるようにする』。プログラミングやデザイン、翻訳など、今まで専門の勉強した人じゃないとできなかったようなことがAIのおかげでできるようになります」
「そして最後が『得意なことをさらにパワーアップさせる』。われわれの専門知識をシステムに落とし込み、さらにそれをAIの力で強化して競合他社に差をつけるのです」 この三つが生成AI が今私たちにもたらしてくれている恩恵になります。特に2番目、今日は『できないことをできるようにする』にフォーカスしていこうと思います、とスタートしました。

実際に藍野氏のPCの画面を大型モニターに映し出し、『製造業の在庫管理アプリを作ってください。キャンバス使ってプレビューできるようにしてね』と、音声入力を使って人にお願いするかのように「ChatGPT」「Google Gemini」「Claude」にそれぞれコードを書かせて生成していきます。それを比較しながら、生成AIの特徴や個性を比較しました。
……と、本来ここからですが以下注釈。
藍野氏はこの後実際に音声で指示を与えながら、われわれド素人向けにまったくのゼロベースからシステム構築を示してくれました。この一連のプロンプトを、ここに克明に書き記したところで、とても読む気にはなれないでしょう。もちろん、そんな言葉を一言一句文字にするこちらも気が引けます。
また結論からいうと、90分ではゼロからのソフトウエアの開発には結局至りませんでした。ただ、90分間で何も障害なくスマートに複数の生成AIを行ったり来たりしながら作り上げていくさまを眺めても、いざ自社に帰って一人で「はいやってみましょう」とPCを起動したところで、絶対同じ結果にはなるわけがないのです。一人ではバイブ(ノリ)も空しいものです。
反対に、うまくいかない時にどうリカバリーしてって直していくのかというプロセスを見ることができた方が、収穫だったといえるでしょう。時には「コードを省略しないで」「エラーが出ているのでやり直して」と音声入力するだけでなく、怪しいと思われるプロンプト部分を、藍野氏は画像でキャプチャー保存。それを貼り付けて「この部分のコードを確認・修正して」と、こんな手法もいけるのかと初心者には十分教材になりました。
何より、ハイブリッド開催で展開する中で操作画面をきれいに録画保存できたことはある意味でなによりの教材に。いわゆるバイブが指す本来的な狙いとは異なる材料ですが、ノリと勢いだけで一発完成できない者にとっては大きなガイド役になりました。

藍野氏は講演中、期待と不安を抱くわれわれに次のような言葉を述べ、生成AIの素晴らしさと説きました。
「製造業の現場では長年、共通の悩みが存在してきた。自社の業務フローに完全に合致するシステムが市場に存在せず、既製品に業務を合わせる妥協を強いられる状況。特注システムの開発には数百万円の費用がかかり、さらにITベンダーは現場の実情を十分に理解していないケースが多い。経営層とベンダーが決定したシステムが、実際の作業現場では使いにくいという声は業界内で頻繁に聞かれる課題だった」
「しかし生成AIの登場により、プログラミングの専門知識を持たない人々でも、自社専用の小規模アプリケーションを開発できるようになった。現場を最もよく知っているのは、日々そこで働くわれわれ経営者であり従業員自身。われわれに欠けていたのは、コードを書くスキルだけだった。生成AIがそのギャップを埋めることで、システム会社以上に実用的なツールを生み出せる可能性が開かれた」

「重要なのは、最初から完璧なものを目指さないこと。AIが生成したコードをそのまま使用し、実際に動かしてみる。デザインが気に入らなければ、素直にそう伝える。ボタンが機能しなければ、その事実を報告する。エラーが発生したら、エラーメッセージをそのまま共有する。このような対話を繰り返すことで、徐々に実用的なアプリケーションが形成されていく」
「バイブコーディングの普及は、製造業界全体の底上げにつながる可能性を秘めている。個々の企業が独自にアプリケーションを開発するだけでなく、成功事例やノウハウを共有することで、業界全体のデジタル化が加速する。AIは遠い世界の技術ではなく、現場で働く人々が日常的に使えるツールであることを、より多くの人に知ってもらう必要がある」
「AIという津波が押し寄せる今、それを恐れるのではなく、サーフィンのように乗りこなす姿勢が求められている。バイブコーディングは、その第一歩となる実践的なアプローチだ。ノリと勢いで始めたアプリ開発が、やがて企業の競争力を大きく高める原動力となる。その可能性を信じ、まずは一歩を踏み出すことが、新しい時代を切り開く鍵となる」

藍野先生、貴重な体験と学びの機会をどうもありがとうございました!
