5月の勉強会報告

任意団体Viepsは5月15日、銀座の中小企業会館で勉強会を開催し20人が参加しました。
今回のテーマは「好かれる企業か、強い企業か」と、経営者にとっては大変興味深い内容。地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターから、事業化支援本部技術開発支援部の薬師寺千尋上席研究員が講師を担当しました。

同センターは都内中小企業への技術支援を通じて東京の産業振興と都民の生活向上を目指す試験研究機関。はじめに、森豊史研究員がセンターの概要と機能を説明しました。
「システムデザインセクターは、中小企業の商品開発やデザイン開発支援のほか、試作したものをどう量産して売っていくかといった商品企画の相談など包括的にものづくりをサポートしています」

なおお台場のテレコムセンターそばにある都産技研施設内には、3Dプリンタや大判インクジェットプリンタ、撮影スタジオなどを備えた出力センターを構えているとのことです。

続いて薬師寺氏が登場。

同氏は前半で「創造工学(クリエイティブ・エンジニアリング)」や「発想技法」といった、アイデアが生まれる過程やモノの考え方の構造を、さまざまなタイプ学術的知見から図解を用いてていねいに説明しました。

常日頃から会議では"アイデアを出せ”と求められますし、また「人はどうやってモノを考えるのか」と改めて問われても、"モノの考え方”なんて論理的に説明できません。私たちは当たり前のようにモノを考え、当たり前のようにアイデアを絞り出しています。この"当たり前”の日常的な行為を学術的な論証のもと深く掘り下げ、そこにどんな種類の発想技法やセオリーが存在し、どうすれば体系的に捉えることができ、どう理解して訓練すれば人はアイデアを生み出すことができ企画立案のフローに組み込めるのか、それを経ていかに目的達成につなげて企業の成長を導くのか――。といった、種々の考える技術を学びました。
「若者と言えば思考が柔軟だからアイデアが出やすい、と考えがちですが、実はそうでもありません。なぜならやり方を知らないから。発想技法を学び、それを訓練することで、若者でも壮年層でも、アイデアは誰でも出すことができます」

後半は、ワークショップ形式で考え方の方法、アイデアの生み出し方の実践です。
最初に実施したのは「発想力テスト」。スイカのイラストが描かれたA4サイズのプリントが全員に配られ、薬師寺氏は「(スイカの)利用法を5分間でできるだけ挙げて」とテーマを与えて練習開始。ペンが走る音の絶えない部員もいれば、開始早々に筆が止まってしまう部員もいるなど得手不得手が見られます。タイムアップ後には『創造性評価表』をもとに、採点を実施。例えば漬け物にする、ジャムにするなど「加工食品」、ランプなど「ちょうちん」、ほかにも「スイカ割り」「ボール投げ」といったオーソドックスな内容は0点のカテゴリー。こうしてシートのカテゴリー別回答と自身のアイデアを照らし合わせながら0、1、2点と採点し、これを通じて自身の思考パターンや創造性評価を知りました。

次いで複数人で1つのグループを構成してワークショップを実践。薬師寺氏から与えられたお題は次の通り。
『皆さんは1週間で10,000個を処分しなければならない百貨店の雑貨担当グループ。いかに利益を上げながらマグカップを処分することができるか』

テーブルには模造紙を用意して、付せんにアイデアを記入しながら「ツリー型」(ロジックツリー)の手法で議論を開始。堅実な意見から突飛な発想、柔軟でユニークな意見を発言し合うことで、「それならば……」「さらに……」とそこから派生するアイデアが次々と飛び出しました。歓声や笑い声、感心の声などが部屋を満たす中、45分後グループごとに発表会を実施しました。

「土を盛り植物を育てるポットにして販売する」というマグカップとしての役割以外の使い方を考えたようなものや、「ゆるキャラをプリントして販売」といったところは、さすが印刷会社の発想。処分というところに着目して、「有料で投げて割らせる」というアイデアは一石二鳥。ほかにも「結婚式のシャンパンタワーのようにピラミッド型にくみ上げ、何かを注ぐという"ギネスに挑戦”的な集客用ツールして利用」という、マグカップ自体を売って収益を上げる発想を離れた提案も。発表の度に「うちの班も考えた」とか「それ面白いね」など、実に楽しそうなワークショップを体験しました。

「今は『思いつき』の練習をしました」と述べた薬師寺氏。「一人で考えるより集団で考えると、短時間でこれだけの発想が出てくるものです。この『思いつき』を『加工』することで『アイデア』が生まれます」とコメント。普段実践している企画立案のフローを図解しながら、『思いつき』が『戦略策定』に至るまでのどの部分に位置するのか・思いつきが何を生み出すのかなどを明確にしながら、「アイデア、アイデアと口にしますが、アイデアを出すという行為は実は高いレベルにある」(薬師寺氏)と、考え方の体系化を紹介しました。

終わりに、ある会員企業が協力して全社員に「会社の良い所・悪い所」をヒアリングしたという、アンケート調査結果を配布。同社社員による率直な意見を読み解きながら「この会社の良いところは何か・潜在している問題点は何か」といった検証をテーブルごとに実施しました。

本人を目の前にして、ここが悪いと発表するには気が引けるシチュエーションでしたが、わざわざこの日のために率先してサンプル企業に名乗りを上げた会員企業の誠意に応えるべく、何が問題で問題点の順序は何であるかを導き出すためにしっかり分析を伝えていました。

「好かれる企業か、強い業企業か。自分で決めることではなくて、外からの評価を通じて見えてくるものです」
「好かれる企業は、どう世間に対して約束をするのか、どんな戦略をもってビジネス活動するのか。強い企業は、自分はこう思うと掲げ、ビジネス活動していくのか。自分たちは好かれる企業になりたいのか、強い企業になりたいのか。これはトップの理念に尽きます」
では強いって何?好かれるって何?という話になりますが、ワークショップが盛りあがったせいもあってここでタイムアップ。結論までには至りませんでしたが、宍戸チェアマンから、今後も都産技研の講演はシリーズ化することが発表されました。
Vieps初の参画型講演は、次回の開催にますます期待高まる充実の内容となりました。