4月の勉強会報告

Viepsは4月15日、中央区銀座の中小企業会館で勉強会を行いました。講師を務めたのは、特定社会保険労務士の澤井清治氏。前回は約1年半前、経営者向けに「労使関係と60歳以降の働き方について」のプログラムで講演いただきました。

今回のテーマは「社内コミュニケーションの活性化・基礎編」。講師からの一方的な情報提供だけではなく、参加者を3グループに分類。章ごとに「ワーク」が設けられ、澤井氏が設定した例題に則して取るべき回答をそれぞれグループで実践してみて発表するという、双方向型の講義となりました。

『コミュニケーションの基本姿勢』の項目で、澤井氏は「キャッチボール(=ツーウェイ・コミュニケーション)を意識しましょう」と提言。コミュニケーションをキャッチボールに例えた同氏は、次のように体系立てます。

①どんな球を投げるか
緩すぎる/強すぎる/ちょうどいい/捕りやすいコース/悪送球/緩急を付ける/わざと強く投げる/時には変化球/投げるフリをする
②キャッチ
しっかり受け止める/捕らない/捕れない/よける/手ではねのける
③どんな球を返すか
同じ調子で返球する/少し強く返球する/ゆっくりと返球する/捕りやすい球を返す/わざと逸れた方向に返す/返さない
キャッチボールという行為を例にボールを言葉に置き換えることで、ツーウェイ・コミュニケーションの妙が推察できます。

これを踏まえたワークは、プリントに記された上司と部下の会話を読み、「問題点はどこか(上司/部下)」「改善点はどこか(上司/部下)」を考えます。内容は次の通りです。

上司「頼んで置いたサンプル持ってきて」
部下「まだですけど…」
上司「急ぎだっていったじゃないか、今日客先に持って行くんだ」
部下「えー、聞いてないですけど…」
上司「昨日の午後、確かに言ったぞ」
部下「今日使うとは聞いていません」
上司「今日のアポは中止だな…」
部下「すみません」
上司「せっかくの営業のチャンスだったのに、まいったな」
部下「そこまで言わなくても…」

確かに、どこの会社でもありがちな例題です。「ダメな上司だ」「なんだこの部下の態度は」と、読み手に考えるスキを与える文章です。会員からは次のような回答が寄せられました。

「『今日使うとは聞いていない』という回答だが、これの前の回答では『聞いていないですけど』と答えている。このことから、〝聞いてはいたが把握はしてくれていない〟ということがうかがえる。伝える側にももちろん問題があるが、いつまでにそれを行うのかを理解しなくていいのか。そこを疑問視できない部下にはもっとしっかりして欲しいという思いを感じた」
「問題点として、上司は言葉ではなくメモで伝えていないから伝わっていない。部下は、言われたことをメモに取っていないし確認もしていない。改善点は、上司は5W1Hを明確化しメモで伝える。部下も、口頭で言われたらメモを取り、それを5W1Hに当てはめて不明なとことは必ず上司に確認して分からない点を無くす」
「文章になってないから、言った・言わないの話になる。言われたときに部下はメモを取るか、上司はちゃんと書類で渡すとか。こういうことが起きやすいだろう」

そうか、仕事をお願いするときは紙に書いて渡した方がいいのか。恥ずかしながら筆者は、メモに取らない聞き手側が一方的に悪いと思い込んでいました。

次に、経営者のみならず誰もが心得ておきたいのが『言いにくいことを伝える・業務の改善を促す』スキル。澤井氏はポイントを次のようにまとめます。

①相手が自分の意見を受け入れやすい状態を作る
誰でもいきなり注意をされればいい気はしない。また、キツい言葉では改善への意欲は湧きにくいもの。注意や改善を促すには、相手が意見を受け入れやすい状態に持って行く必要がある。人は感情の生き物。「いつも助けてくれてありがとう」など、まずは日頃の仕事をねぎらったり、相手の長所を褒めたりする努力が重要。相手は意見を受け入れやすくなる。
②目的を明らかに
なぜその話をしなくてはならないのか、という相手を納得させる説明が必要。目的のない意見は、ただの小言や雑言となる。「会社を少しでも良くしたいんだ」「チームの活性化のために話をしたいのだが」など。
③事実を伝える
事実を伝え目線を同じにしておくことが必要。事実の把握が不正確なまま話を続けても、初めのボタンを掛け違ったままではいつまでも納得が得られない。
④熱意をもって話す
人を純粋に動かすものの一つに、熱意がある。熱意とは、自らの感情が外に現れた状態のこと。ただし、オーバーアクションがいつも好ましい訳ではない。
⑤信頼感
人は信頼している相手を裏切ることがなかなかできない。自身は目の前の相手を信頼している、と信頼の意をしっかり伝えることが重要。

これを受けて用意されたワークでは、こんな条件が課されました。

「あなたは作業のチームリーダー。最近あなたより年上のAさんが中途採用で入社しチームに加わりました。Aさんは仕事も出来業務知識も豊富で新人のBさんの教育係に任命しました。ところが雑用は言いつけるものの教育というレベルに達しておらず、Bさんは仕事への意欲を失っています。性格も大雑把で感情的に物を言うこともしばしば。Aさんにどのような言葉で改善を促すことができるか」

各グループで実践した後、澤井氏がグループごとに一人指名して代表者がトライします。中には、どよめきが起き大きな拍手をさらうほど完璧な回答を披露する会員も。
澤井氏も「こんな言い回しをしていましたが、とても良かったのではないでしょうか」「今こういった表現をしましたが、ココが重要で……」と逐次検証し要点をまとめて評価してくれるので、より理想型の輪郭がはっきりします。「上司としてこうあるべきなのか……」という感想もちらほら聞こえてきます。

このほかにも『傾聴のコミュニケーション』『「自己重要度」を高めてより深いコミュニケーションを図るには』などなどテーマは盛り沢山。約2時間、多くのワークを皆で実践しました。中には関西出身の会員らが社長と部下を演じて漫才さながらのかけ合いで大きな笑いを誘ったり、“きっとこんな社長の下で働ける部下は幸せなのだろうな”と感じさせる、人間味あふれた回答例を披露したり。普通は自分の会社以外の社内コミュニケーションに触れる機会なんて滅多にありません。多くの学びや発見を得た、印象に残る勉強会となりました。

終わりに、澤井氏はこう総括しました。
「コミュニケーションが活性化した社内の、社員同士の楽しそうな会話。同僚、上司と部下、経営者と社員のコミュニケーションが上手に取れている会社では人も成長します。そして、社員のモチベーションも高いものです。そんな環境を作ることも、経営者の大切な役割なのではないでしょうか」
「一人一人が少し意識を変えるだけで、社内のコミュニケーションは格段によくなります。そして、そこにかけるコストは『ゼロ』です」